YMO的海外戦略を踏襲する現代忍者・Ninja beatsを知る
Ninja beatsとYMO
最初に観たのは郡山のClub#9でninja beatsとして。そして久々にSHINさんのソロで彼のウクレレを同じくClub#9で聞いた。今回はアコースティック・ウクレレなライブで、これはこれでとても良かった。
で、最初に観た当時、感じた印象をFacebookに書いたことを思い出した。書いたその日だったかにSHINさんご本人からメッセージをもらったから、という事もありとても記憶に残っていた。
ninja beatsは忍者の衣装でボイス・パーカッション+ウクレレというユニークな組み合わせで音楽を奏でる音楽ユニット。彼らの言葉で正確に言えばボイス・パーカッションではなくヒューマン・ビートボックス。
ボイパにDJ機材を組み合わせて、音源が自身の口であるというビートボックスと名乗るにふさわしいライブパフォーマンスを行う。
彼らが自覚的なのは、海外受けする「ninja=忍者」という日本のカリカチュアとして流布しているイメージに最先端感のあるボイパのbeatboxにウクレレというアコな楽器を組み合わせることによってかつてYMOが世界市場への足がかりをYellow Magicというバンドネーミングで自嘲的に日本人であることを表明しつつ最先端のテクノを融合させたような世界戦略を見据えた音楽活動をしていること。
1979年当時YMOは最先端の電子楽器を駆使しつつ、加えてオリエンタルでエキゾティック。それもただオリエンタルなのではなく、外国人がみた「東洋」を演出。それはアメリカ人の手によるエキゾティック風サウンドであるマーティン・デニーの曲をカバーしたのはもちろんメンバーが人民服を着ていたり、風邪のときに日本人が好んでするマスクをライヴでメンバーがはめたりすることによって演出していた。
そのマーケティング感覚を焼き直して現代風にしているなと。(SHINさんご本人もYMOはかなり参考にしていたとの事)ninja beatsは2016年の5/13〜5/28の期間、三味線と女声ヴォーカルのゲストも加えてのヨーロッパ・ツアーに出た。YMOも松武秀樹さんと矢野顕子さんを伴ってワールドツアーに出ていたことも被る。でも、このセンスはテクノ〜EDMの本場ヨーロッパでも大ウケしていた。そんなこんな海外ツアー以降、Y7 Summit(先進国首脳会議G7 Youth)でゲスト演奏したりドイツ大統領訪日記念レセプションでゲスト演奏したりと国際的なイベントで活躍している。
そんなninja beatsの音楽が日本で生まれる歴史的な音楽上の系譜。またメンバーの来歴的な系譜を感じる楽曲を「Cool Japan」というテーマでくくったプレイリストを作りました。どの曲の何がninja beatsの音楽に近しいか、という極私的なレビューです。これで立体的にninja beatsを知ることができるかも(笑)。
PLAYLIST
彼らのライブパフォーマンスと楽曲的な狙い、展開方向の感じが、初期のYMOに似ているという事もあり、彼らユニットの系譜の最初の曲としてYMOの曲を置いてみた。
1曲目はYMOの代表曲の一つでもあるライディーン(RYDEEN)。
YMOの1979年10月16日の第1回ワールドツアーのヴェニュー(ロンドン)でのライブを収録した『パブリック・プレッシャー/公的抑圧』(1980)より曲名は「雷電」と表記されている。最初のヴォコーダーによるテクノ初上陸的な挨拶からプレイリストを始めてみたいな、という事もふまえ。
YMOは、結成当初から明確に「全世界へ」という志向性を持って生まれたバンド。 79年2月に結成されて半年後の8月にはロスで最初の一歩を踏み出し、間隙を置かず二ヶ月後、一回目のワールドツアー(トランスアトランティックツアー)へ突入。このロンドン公演でのライディーン。YMOは、海外(専ら欧米を指す)で「ウケた」。そして世界にテクノミュージックのムーブメントを興した先駆者でもある。
ninja beatsも参加34か国5万組以上が参加する世界最大のバンドコンテストである、「EMERGENZA Music Festival 2015」にて総合優勝。2016年にはヨーロッパツアーやパリでのツーマンライブを成功させ、本格的な海外進出を行った。
YMOの展開がイメージとしてあり、外国人が好む、ninjaというキーワードとコスプレに欧州EDMシーン好みなライブパフォーマンス、これが「ウケ」ないわけが無い。勿論、ライブパフォーマンスが良くなければ支持されないが、そこは圧巻のパフォーマンスでEMERGENZA Music Festivalの優勝を勝ち取る。なんでも彼らのライブを見て3人が失神して運ばれたと映像記録には残っている。
という事で2曲目にはninja beatsの「ZEN」を。雷電に対して禅。
雷電では当時のテクノを感じさせるエレドラが印象的だが、ZENではサブメンバーである澤田響紀の三味線の撥弦音が印象的。そしてサポートメンバーでヴォーカルのYuikoのヴォーカルがninja beatsの音楽の世界を拡げている。
女声ヴォーカルという事で思い出したのがサンディー。
1980年、YMO最盛期の細野晴臣プロデュースによるソロ・アルバムをリリースしたサンディー。そのアルバムに参加していた久保田麻琴とサンディー&ザ・サンセッツを結成し、世界各国でのツアー活動を行う。オーストラリアでアルバム「VIVA LAVA LIVA」からのシングルカット「STICKY MUSIC」がヒット。
YMO同様、サンディー&ザ・サンセッツも日本より海外での評価が高かった。あのデヴィッド・ボウイも1984年頃、彼らのステージを観に会場まで足を運んで大絶賛していたそうだ。
そのサンディーのヴォーカルによる「STICKY MUSIC」を3曲目に。
Yuikoのヴォーカルの「ZEN」から「STICKY MUSIC」のサンディーという流れ。
そして続けて、Yuikoのヴォーカルの「tearless (remix)」を4曲目に続けた。
ミドルテンポで5曲目はMETAFIVEによるCUE。
曲そのものは、YMOの1981年リリースの5枚目のアルバム『BGM』よりシングルカットされた曲。この曲を高橋幸宏が2014年にEX THEATER ROPPONGIがオープンする際のライブきっかけで結成したMETAFIVEによるライブを収録した『TECHNO RECITAL』より。
小学4年の時、地元のロボット展示会で耳にしたYMOの『中国女』が、自らの音楽的な出発点という元・電気グルーヴの砂原良徳(愛称:まりん)が、趣味でYMOの曲のオケを作って持っているのでライブで完全再現された。YMOのオリジナルメンバーとその影響を受けた第二世代がコラボしているMETAFIVE。こうしてテクノの歴史は継承され続けていく。
6曲目は同じくMETAFIVEよりKey。
この曲もYMOの1981年リリースの6枚目のアルバム『テクノデリック』収録の「手掛かり」(Key)をMETAFIVEがライブ収録したもの。1981年当時、細野、高橋は、この曲について「CUEの続編」と語っている。それらしく、2曲を続けた、このプレイリストの流れは違和感なく曲が続いていく。
そして7曲目はninja beatsの「Hanabi」(Berlin SO36 ライブバージョン)へと続く。
METAFIVEのライブ音源が2曲続く中でベルリンライブの「Hanabi」のヒューマンビートボックスのリズムも違和感なく続く。
YMOオリジナル〜第二世代の完コピ的ライブ再現〜現世代で人の口によるビートボックスというアナデジ・デジアナという反転構造が見られることは興味深い。
人によるグルーブを抑え、リズムボックスに同期してドラムを刻むというアナログなものをデジタルで構築するという志向が初期のテクノにあって、ハウス〜現在までのEDMに至る流れの中で、エレクトロニック・ダンミュージックが人間のノリやグルーブをDAWによって再現したり、心地よく踊らせる方向へ全面展開していった先に、人間の口を用いてビートボックスの響きや音色を再現させるボイパによってデジタルなビートボックスをアナログな口という器官で再現する反転的な職人芸へ至る。
テクノとは、「リズム・マシンではなく、ドラマーが機械のリズムを叩いてこそテクノ」と1980年代のテクノバンド・DEVOが語った、そのような精神がninja beatsにも継承されている。ライブの余韻が残る中、
8曲目は世界的ウクレレ奏者のはしりであるJake Shimabukuroによる「Shake It Up!」
速弾きのトレモロから印象的なフージョン色の濃いリズミックな曲へ。
ninja beatsのウクレレ奏者のSHINさんもよく聴いていたと語るウクレレのイメージを大きく変えた人物の一人。ウクレレの響きの流れに続けて、
9曲目はウクレレカッティングと高音での印象的なメロディラインが奏でられるninja beatsの「RINNÉ」へ。
「Shake It Up!」がフュージョン的なダンサブルな中盤へと展開するのに対して、「RINNÉ」はヒューマンビートボックスによるEDMといった趣きに展開していくのがninja beatsの持つ現在性。
YMO、Jake Shimabukuroといった系譜を彼らなりに咀嚼しながら現在的なものにしていった後を感じることができると思う。
続く10曲目は、「RINNÉ」の中盤に出て来るヒューマンコーラスをバックに奏でたテクノ〜ダンスの系譜の先輩である電気グルーヴによる「Nothing's Gonna Change (short)」へ。
YMOの影響を受けた第二世代といえる電気グルーヴから、
現世代のninja beatsによる、EDMな感覚の強い「OverDub」を11曲目に配した。
一転、ラップのテイストで始まるギターミュージックの12曲目は高中正義、1996年のGuitar Wonderに収録の「Sunday after Casino」。
曲調も系譜も何の関係があるの?と思われる事でしょうが(苦笑)このプレイリスト中、検討の余地ありの一曲かな?と迷いつつ系譜的にはYMOの高橋幸宏と共に、「サディスティック・ミカ・バンド」に在籍し名盤と呼ばれるセカンド・アルバム『黒船』のギターは高中正義。
高中正義は以降、フュージョン〜トロピカル〜ダンス・ミュージックの流れでギター・インストゥルメンタルを追求し、YMOメンバーつながりの弦楽器奏者を選定してみた、といったところでお許しを。
この曲から13曲目のninja beats「bpm」へ。
冒頭、ウクレレらしい高音メロディにラップが重なるところが12曲めとのつながりが感じられるのではと。
もう一つは、ウクレレという楽器がもつアイランドミュージックの香り。サイパン島で17年育った帰国生ninja beatsのSHINさんが通過したところの音楽の香りと響き。
高中正義、サンディーといったプレイリストに加えたお二人も、音楽分野の系譜とは別に、ウクレレという楽器がもつアイランドミュージックの香りを強く自身の音楽で放っているという事でninja beatsへの風土的系譜として選定。
80年代に日本の女性ヴォーカリストの先駆けとして活躍、世界のヒットチャートを賑わせ、現在はハワイ伝統文化の継承者「クム・フラ(フラの修行を積んだハワイ最高峰の資格を持つフラマスター)」として東京と横浜でフラ教室を主宰しながら音楽活動を続けるサンディー。
東京で生まれ、ハワイで育った彼女は多様な民族的バックグラウンドを持つ自身のことを「PACIFICAN(太平洋に属する人間)」と表現する。このPACIFICAN的な感覚がninja beatsのSHINさんにも通底するように感ずる。
そして、最後にninja beatsへの系譜を感じられる音楽をプレイリスト化しながら、筆者自身のルーツが、やはり南方系、沖縄生まれの母親を持ち、小学1年生の頃まで沖縄で育った自身の身体の記憶の中に、ウクレレ〜ギター〜高中〜サンディー〜トロピカル〜アイランドミュージック〜踊る風土〜ダンス・ミュージック〜EDMを好む遺伝子があるのだという事にあらためて気付かされた次第。
こうやって並べていって聞いてみてもninja beatsの音楽の持つ音楽性の新しさと現在性は、テクノの精神性の伝統を踏まえつつ、ウクレレという楽器の音色が放つアイランドミュージックの香りを中和しつつ、独自のものとして響かせている彼らのクリエイティビティが際立つ。
テクノとはスタイルではなく、精神だとYMOメンバーは言う。では、アナデジ・デジアナ反転する中でスタイルを参照したninja beatsが生み出す今後の音楽精神はどこに向かうのか。サンディーは自身をPACIFICANと表現した。テクノの奥底に流れる民族的精神性の風土と現在の音楽潮流との結節点に何が紡がれるのか?テクノ・クールジャパンの系譜に連なるninja beatsの今後の展開に期待したい。
プレイリスト・楽曲データ
❶―雷電[ライディーン(RYDEEN)]5:14
YELLOW MAGIC ORCHESTRA
『パブリック・プレッシャー/公的抑圧』(1980)より
YMOの1979年10月16日の第1回ワールドツアーのヴェニュー(ロンドン)でのライブ収録
❷―ZEN 3:36
ninja beats, 澤田響紀, Yuiko
『RINNÉ』(2017)
❸―STICKY MUSIC 4:10
サンディー&ザ・サンセッツ
『VIVA LAVA LIVA』(1984)六本木ローカルバンドと言われてた時代からオーストラリアでのスマシュヒット、ステッキーミュージックを含むアルファレコード〜YENレーベル時代のベスト盤。YMOメンバーのサポートを受け、テクノポップぽっいがアジアンテイストな曲づくりのアルバム。
❹―tearless (remix) 3:01
ninja beats『RINNÉ』(2017)
❺―CUE 4:41
METAFIVE (高橋幸宏 × 小山田圭吾 × 砂原良徳 × TOWA TEI × ゴンドウトモヒコ × LEO今井)
『TECHNO RECITAL』(2014)
2014年1月17日にEX THEATER ROPPONGIで行なわれたテクノ・リサイタルの模様を収録したライヴ盤。
YMOよりもYMOっぽいというライブ再現。
❻―Key - Live 4:39
METAFIVE (高橋幸宏 × 小山田圭吾 × 砂原良徳 × TOWA TEI × ゴンドウトモヒコ × LEO今井)
『METALIVE』(2016)
2016年1月21日のEXシアター六本木で開催したライヴ収録
❼―Hanabi (Berlin SO36 Live Ver.) 2:36
ninja beats『RINNÉ』(2017)
❽―Shake It Up! 2:59
ジェイク・シマブクロ『Dragon』(2005)
敬愛するカンフー・マスター=ブルース・リーの愛称からネーミング。日本及び全米でもリリース。
❾―RINNÉ 3:02
ninja beats『RINNÉ』(2017)
❿―Nothing's Gonna Change (short) 3:45
電気グルーヴ『電気グルーヴのゴールデンヒッツ~Due To Contract』(2011)
代表曲・未発表ミックスなど全15曲を収録。全曲砂原良徳リマスタリング。「Nothing's Gonna Change」そのものは2000年にリリースしたアルバム『VOXXX』所収。
⓫―OverDub 3:21
ninja beats, 澤田響紀『RINNÉ』(2017)
⓬―Sunday after Casino 3:54
高中正義『GUITAR WONDER』
(1996)21枚目のスタジオ・アルバムに所収。
⓭―bpm 3:33
ninja beats『RINNÉ』(2017)
0コメント